別府新聞社は新潟の十日町市という所にあります。

米どころでもあり、豪雪地帯としても知られている新潟十日町。

その十日町にも冬が来ようとしています。

ミカンを食べすぎる冬。

布団から離れられない朝。

スルメをストーブの上で焼くお茶の時間。

そんな雪国のくらしが来ようとしています。

雪国のくらしは不思議で面白いです。

独特の空気感があります。

雪国の人は冬と繋がっていて雪に溶けちゃったんじゃないかと思うほどです。

ここでは江戸時代に発行された「北越雪譜」(これも雪国のくらしについて書いた本)を片手に

そんな雪国のくらしを書いていきます。

(もちろんミカンを食べすぎて手が黄色くなったとかも・・・)





▲ここが新潟県十日町市。


新潟県十日町市

2月24日10時現在の情報 (別府新聞社本社前の情報)

外気温 3.7℃ 積雪量140cm





雪国くらしの手帖 きせつ特集

雪国の正月 行事編

むこ投げ・墨塗り


雪国の行事、最終回の今日は「むこ投げ・墨塗り」です。

この不思議な行事について書いていきたいと思います。

まず「むこ投げ」とは?というとこから説明しますけど、

これを読んでいる皆さんは「むこ投げ」という名前から不思議なはずです。

でも、この不思議な名前も実はこの行事の全てを表している名前なんです。

簡単に言うと「むこ」を「投げる」から「むこ投げ」。

本当に「むこ」を投げてしまうのです。(雪の上からですけど)

ま、いきなり言ってもしょうがないので

なぜ「むこ」を「投げる」のか、その由来を説明しましょう。


ま、これは昔の話し(100年前くらい)なのですが、

例えば、ある集落に住んでいた女の人がいるとして、

他の集落の男の人と結婚しました。

なので、その男の人の集落へと

女の人は連れて行かれてしまいます。

そこで、何が起こるかというと女の人がいた集落の人が

村の娘をとられた!と、やっかむ(やきもちをやく)んですね。

そして、その村の人は、婿(男の人)を腹いせに投げたのです。

これが、「むこ投げ」の始まりなのです。

めでたし、めでたし。


じゃなくて・・・めでたくないじゃないですか!

でも、それは昔の話しなので、逆に今は、地元で結婚した人を投げ、

夫婦円満を願う行事となっています。

めでたし!めでたし!(やっと言えました・・・)


では、もう一つ、これまた不思議な名前の「墨塗り」を紹介しましょう。

この「墨塗り」は、「むこ投げ」と共に行われる行事で

その名の通り「墨」を「塗る」行事です。

でも、「墨」というのは、ただの「墨」ではありません。

以前、紹介したどんど焼き
を行った後に出る「灰」を雪にとかした「墨」なのです。

そして、その「墨」を友達や家族、知らない人にも塗りまくるのです!!

でも、「墨」を塗って、いじめているわけでは、ありませんよ。

なぜ、「墨」を塗っているかというと、

黒くなるまで、つまり日光にあたり日焼けするまで、

働こう!!頑張ろう!!という意味らしいです。

中々、興味深い理由ですよね。

さて、これで「むこ投げ」と「墨塗り」の謎は解けたわけですが

すっかり開催する場所を言うのを忘れていました。

開催されるのは、十日町市の松之山(まつのやま)という所です。

松之山は、温泉地として栄え、僕も近所のおばさんも

体調が悪かったり、足・腰が痛くなったりすると「松之山温泉」によく行きます。

墨塗りの後は、顔が墨だらけになるみたいなので、

みんな、温泉に入って墨を落とすみたいですよ。(笑)

ま、そんなことは、さておき、「百聞は一見にしかず」なので

とにかく「むこ投げ・墨塗り」に行ってみましょう。

開催される日は、小正月の15日。

どんなふうに行われるのか、楽しみです。

まず、最初に行われるのは「むこ投げ」。



▲これから、投げられる夫婦。

婿が、男たちにかつがれて、薬師堂に行き、

そして、薬師堂にて、お払いをしてもらい

その薬師堂の上から(5mくらいある)投げられるそうです・・・





▲かつがれているお婿さんと薬師堂。

そして、今、その薬師堂に、お婿さんがいるわけですが、さぞかしドキドキしているでしょう。

投げられる、お婿さんのお父さんにも、インタビューができたのですが、

「嬉しいような、悲しいような・・・だけど、前日に大雪が降ってくれて雪のクッションが

出来て良かった。更に今日は晴れて、むこ投げ日和だ」と色々な心境を語ってくれました。

さて、そんな「むこ投げ」ですが、いよいよ今、むこが投げられようとしています!!



▲むこ投げを見るために集まった見物客。

では、その時の映像をどうぞ!





いかがでしたでしょうか?これが「むこ投げ」です。

雪のクッションがあれども、この高さ。怖そうですね。

しかし、以前投げられたことのある人は「雪のクッションが気持ちよかった」と言います。

そして、今回、投げられた夫婦に聞いてみても、「最高に楽しかった」と言うのです。

でも、「すごく怖かった」とも言ってましたけどね。(笑)


さて、そんな「むこ投げ」が終わったあと、行われるのは、「墨塗り」。

まずは、お払いをします。

そして、興味深いのが、神様を祀っている社。

おわかりの通り、雪で出来ているのです。

中々、ちゃんとした社ですよね。(作った人、上手いなぁ)





あと、もう一つ、この社を見て思ったことがあります。

社の上にカメラマンが乗っているということです。

僕は、この光景をみて、あまりにも周りを見ていないカメラマンに

びっくりしてしまいました。ヘンな大人だなと。

そして、カメラは見えない武器にもなりえることを改めて確認しました。

ちなみに僕が「墨塗り」に行った目的(?)は、

「写真を撮るため」ではなくて、雪国の暮らしを感じて、

これを皆さんに伝えることです。

上手く伝えられているかはわかりませんけど、

まぁ、本気で伝えたいな、とは思っています。


では、本題に戻しましょう。


で、お払いをした後に行うのは、「みかん撒き」。

僕も、みかん撒きのことを今回、初めて知りますが、

そんな難しいことじゃなくて、お菓子を撒くみたいに

みかんを撒くということだけなのですが・・・

「福」と書いてある「福みかん」を拾うと福袋が貰えるのです!!

そして、「みかん撒き」で思いもよらぬことが起きました。


なんと、「福みかん」を拾ってしまったのです!



あまりにも、びっくりしてしまい大きな声を出してしまいました。

ちょっと恥ずかしいですが、では、その「福みかん」を拾った瞬間の音をどうぞ。(動画も)

「福みかん」(クリックして再生)





ハイテンションになるものなんですね。

自分で聞いていても、びっくりです。

ちなみに福袋の中身はお菓子、カレーなどでした。(美味しく頂きました)


さて、「福みかん」を拾っただけで満足ですが、まだ「墨塗り」があります。

その墨塗り、最初に行うのは、「墨の元」となる、「どんど焼き」。

墨がないと、もちろん「墨塗り」が出来ませんもんね。

さて、そんな「どんど焼き」。

婿投げの夫婦が火をつけ、ボーッと火が広がっていきました。



大きく、スラリと高い、松之山の「どんど焼き」。



思わず、その美しさに惚れてしまいます。(???)

あ、そんな美しさに惚れ惚れしていたら、もう「墨の元」が出来ていました。

つまり、どんど焼きが、燃え尽きていたのです。

さて、そうと決まれば「墨塗り」の始まり。

知らない人にも容赦なく墨を塗ります。

僕も墨を塗られてしまいました!





この顔に塗られた墨のその後なのですが、

結構、ざらざらして、痛いので、早急に

松之山のそば屋さんをお借りして顔を洗わせていただきました。(笑)

まぁ、何にしろ、「墨塗り・むこ投げ」は雪国ならではの

楽しみなのではないかなと思います。

今も昔も、行事は楽しみだったのですね。

これで、雪国の正月は、ひとまず終わりですが、

今度は、雪国の春・夏が出てくるかもしれません。

ちなみに今回、投げられた、そして墨を塗られた夫婦が

「気持ちを新たに頑張りたいと思います」と語ってくれました。

別府新聞も、書くのは大変だけど、今までにない、

新しい民俗学みたいなものを開拓していきたいです。

ま、結局は、そんな難しいことではなくて、今まで通りなのですけれど、

これからも、ぜひ雪国について考えていただければと思います。

最後に、今回、取材に協力して下さった松之山の皆様に感謝して終わりたいと思います。

(雪国の正月 「むこ投げ・墨塗り」終わり)



雪国くらしの手帖いままでのタイトル

その1 「えびす講の巻」 2013-11-21更新

その2 「はなちゃん登場の巻」 2013-11-22更新

その3 「ばあちゃんのこうこの巻」 2013-11-23更新

その4 「塩沢宿の巻」 2013-11-27更新

その5 「雪国の過ごし方」 2013-12-22更新

その6 「雪の未来」 2013-12-22更新

その7 「雪国の正月その1」 2014-2-2更新

その8 「雪国の正月その2 どんど焼き」 2014-2-11更新

その9 「雪国の正月その3 鳥追い」 2014-2-15更新

その10「雪国の正月その4 むこ投げ・墨塗り」 2014-3-15更新

その11「団子まきの巻」 2014-3-21更新

その12「野沢菜漬けの巻」 2014-11-11更新

その13「お手玉」 2014-12-31更新


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